伝統の形と彫り方に平安を願う

ヒデさんこと平出英夫さんの一日は仏壇に向かっての読経から始まります。菩提寺三光寺(曹洞宗)の教えに従い「般若心経」「修証義」などを、約30分かけて暗唱。持ち前のハリのある声で浪々と唱え上げる姿は、いつもの人懐っこい豪快な笑顔のヒデさんをより魅力的に見せてくれます。そんな姿が評判を呼んで、よそのお宅からもお経を頼まれることがあるとか。

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読経を始めたのは、お母さんが末期の胃がんだと宣告された頃から。医師からは手立てはないと言われましたが、「人事をつくして天命を待つ」がヒデさんのポリシー。できる限りのことはしてやりたいと手術を依頼。一方で自身は読経を行うようになりました。真摯に病気と向き合った甲斐あってか、お母さんは回復し、それから11年存命してくれました。

戦争で病気になり復員後すぐに亡くなったお父さんと、女手ひとつで育ててくれたお母さんをねぎらうためにも、建墓は悲願でした。石塔には艶もちのよい良質の黒御影を用い、須弥壇と水切りの加工を施し彫刻面にも額を入れたことで、全体的に華美ではない高級感を感じさせる仕上がりとなりました。ひときわ想いがこもった箇所は正面の彫刻文字です。曹洞宗の仏を表す○(円相)を戴いた「平出家先祖代々」と彫りました。「この○マルが気に入ってなぁ。いろいろ説明してもらったけど、おれには『人類みな兄弟』『世界はひとつ』って意味にとれたんだ。あの世へ行ってもみんな仲良く、ってな」

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日常的に仏様と対話しているヒデさん。お経をあげていると自然に気が休まるといいます。「やらねぇとおちつかねぇわ」といいながらお墓にも週に1度は出向きます。平成9年建之。頻繁に手入れされていることもあり、お石塔は変わらず黒々と光っています。「こんないい墓じゃ早く入りてぇわ」と、またガハハと豪快に笑うヒデさんでした。

きちんと宗派の教えに則して建てていただいたお墓は、石屋としてもうれしいものです。

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