夫建次郎さんの定年退職後、東京から小淵沢へ移住してきた新倉さん夫妻。山をこよなく愛する建次郎さんは、昔からよく山に登るうちに八ヶ岳の開放的な山の眺望に魅せられ、移住を決意。甲斐駒ケ岳や八ヶ岳の眺望がみごとな里山の一角に定住用の住まいを設けました。「こういうところに骨をうずめられれば」と願うようになったのがお墓建立のきっかけ。建次郎ご夫妻が初代となる、いわゆる寿陵墓です。「もともとお墓をつくるつもりはなかったんです。骨は大好きな山のどこかに撒いてくれれば、と。でもお墓って残った側のよりどころだからね。それにこの墓地だとお墓に入っても山を見られる。」
角をアールにしたやさしいフォルムの横型の石碑に満開の桜を彫刻。花びらがひらひらと舞う様子も動きがあり明るさが感じられます。建次郎さん自身が撮りためた花の写真を参考にデザインがおこされました。花を生けたまま枯れていく様子を見るのが忍びないので花立はつけず、代わりにブーケを置く台を設けました。お参りが終わればそのまま持ち帰りやすいスタイルです。「実家の墓は暗くてじめじめしたところにあるんです。お墓ってそういうものだと思ってた。だけどこのあたりのお墓はみんな広くて眺望のいいところに建ってる。その環境に似合うお墓にしようと思いました」
お墓が仕上がった後起こった東日本大震災。新倉さんの死生観や生活観も大きく変わりました。「震災直後ろうそくの光でご飯食べたりしたでしょう。人間ぜいたくになりすぎたよね。自然の中で生きる幸せを感じたい。都会育ちの子供もここに呼ぶのが楽しみになった。墓はもうひとつの集いの場になりそうです。」桜の彫刻のお墓の前で子供たちの自然な笑顔がこぼれます。