八ヶ岳を望む里山墓地のM家のお墓。
M家といってもお墓に家名はなく、故人の名前のみを彫った小さな自然石がちょこんと置いてあります。妻Jさんを偲ぶための碑石です。
夫Kさんはその後いいご縁があって再婚。二人の息子さんは成人し、今は郷里から離れています。Kさんいわく「私たち家族には、〇〇家之墓という一つの墓石はそぐわない気がしました。それぞれに人生があって、あるいはこのお墓にみんなが入るわけではないかもしれない。でも今はみんなで彼女を偲び、静かに向き合える場所が必要でした」。
お墓の設計は、デザインの仕事をしているKさん自ら考えました。ベンチのある部がこの世だとすれば、玉砂利で仕切った献花スペースの向こうがいわばあの世。そのステージにはまずJさんの碑石があり、今後旅立つごとにその人に合った碑石が増えていくという構想です。
「石は自宅の庭にあった自然石を選びました。暮らしとともにあったなじみのある石です。息子たちにはここを守ることを縛るわけではなく、でもルーツがあることは感じてもらえると思う。個人を尊重しつつ、八ヶ岳南麓の家で共に暮らした私たち家族らしいお墓ができました」。
家族でデザインを検討する際には段ボールで実寸大の模型を作ったという念の入れよう。ベンチ部分の製作や納骨時の供花にはJさんを知る友人たちが関わりました。交友関係が広かったJさんを偲び、大勢の人たちがお墓参りに訪れます。
「現代にお墓は不要では、と思っていましたが、故人との対話で気持ちも落ち着き、人とのつながりが深く感じられました。今は作ってよかったと思っています」。