手書き文字の彫刻は意外と大変
久しぶりに、手書きの戒名を墓誌に彫ってほしい、という依頼がありました。
これ、実はかなり大変なのです。
今は、パソコンのフォントを専用のプロッターで自動カットして、ゴムマスク(彫刻用文字型)を作る時代。
当店では機械好きな先代親方が他の石屋さんに先駆けて自動ゴム切り機を取り入れ、
当代の若だんながフォントの字そのままではなく一文字一文字にこだわって文字を作りなおしました。
石に彫ったときに美しく見える抑揚のある字は他の石屋さんにも評価が高く、
他店用のゴムマスクの製作も受けています。
墓石の表字のように大きな書は、有名な書家さんや住職さんの手書き文字をゴムにトレースしてハンドカットすることはときどきありますが、
墓誌の戒名(+歿年月日、俗名、行年)のようにたくさんの小さな文字を手で切り取るのは大変。
もちろん昔はそういうやり方だったわけですが、
今はそんな細かい作業を請ける石屋も少なくなりました。
するとしても、単純に転写した文字をそのまま切るだけ。
でも、文字にうるさい伊藤石屋は違います。
まずスキャナで原稿を取り込み、1文字づつ位置や大きさを調整、ゴムシートに出力した後、文字の彫上がり考えながら輪郭を修正しつつカットしていきます。
しかも、ハンドカット用のカッティングナイフ(振動式)ではなく、微調整のきくメスによる手切りにこだわります。
書き文字をそのまま刻んだのでは、もとの書と雰囲気が違ってしまうからです。
自慢じゃありませんが、若だんなは手先が器用。
冗談で「石屋じゃなくて、医者(執刀医)になればよかった」などとほざくくらいですから、こういう作業はまあ得意といえば得意なのです。
そんなに時間かけても誰も気が付かないよ〜、なんでそこまでするの?と思いますが、
しなきゃ書いた人が違和感を持つんだ、書かれた字がそのまま彫られたようにしてるんだ、って理屈みたいです。
でも、ほんとは好きだからやってるんですよね。
しかし大変〜。
でもご依頼主さんも、どうしても住職の手書きにこだわりたかったということで、
がんばってお引き受けしました。