おかみブログ
棺の前で
学生時代の先輩の訃報を知り、横浜・長津田へ。
ホールが4つもある大きな斎場で「○○トメ」さんとか「○○△蔵」さんのお通夜会場と同じ並びで、39歳で逝った先輩の遺影が青白い照明の下できれいな花に囲まれていました。
遺影の目線は正面ではなく、少し斜め下あたりを見ている感じで、おそらく数年前の結婚式のワンシーンだろうと思われる和装姿で、自然な表情だけどいつもよりりりしく、写っていました。
同期同士の結婚なので、奥さんもよく知っていますが、焼香台からかなり離れた奥のほうにいらして、なんとなくこちらのほうに目を向けられましたが、表情はよくわかりませんでした。
この先輩とは上京してからも時折会う機会がありました。
学生の延長で、他の同期や先輩たちも含めて、まだまだバカ騒ぎしたりしていました。
身長も横幅もある体格で、ちょっとオタクな趣味の混じった博識家で、一緒にいるととても安心したほがらかな気分にさせてくれる人でした。
ドラえもんのような丸い手を口元にもっていきながら、ひょうきんに話をするしぐさがなんともかわいいものでした。
遺影の顔はあまり見たことのない表情でした。
そうか、ちゃんとしたシーンではこういう顔もするんや、ちょっとかっこいいな、と今日久しぶりに会った仲間と話しました。
もうお経も終わり、遺族の人たちは控え室に入っていました。
「デカいヤツやったのに、こんな狭いところに入れられて・・・」とある人がいいました。
焼香台の後に、花にまぎれるように棺がひっそりと置かれていました。
ここには先輩は居ない、という感じがしました。
私のお墓の前で 泣かないでください
そこに私はいません 死んでなんかいません
魂がからっぽの棺の前で、私たちは先輩への思いをめぐらしました。
棺の中に先輩はいないけど、私たちの会話の中では生きていました。
こういう会話が上る場所が、先輩のいるところなんだろうと思いました。
棺や墓石自体には意味はないけど、その前にいることで、純粋に神聖な気持ちになれることもあるかもしれない。
今日集まった昔の仲間は10人。(告別式のほうはもっと来るはず)
「こういう集まり方は、きっかけがちゃうやろ。」と嘆きつつも、この集まり自体が確かに故人が存在した証でもあるのでした。
大谷石のふるさと
栃木県宇都宮市郊外の大谷町(おおやまち)を訪ねました。
ここはその名もズバリ大谷石(おおやいし)の産地。
大谷石は、日本で最も一般に名の知れた石種といってもいいでしょう。
凝灰岩の一種で、大谷町でしかとれないのでその町の名をとっています。
ワインのボルドー、発砲ワインのシャンパンみたいなもんです。(?)
独特の青緑の地に渋茶色の斑で、石でありながらとても柔らかい風合いを感じさせます。
耐火性・調湿性・防腐性を誇り、加工もしやすいことから日本の建築市場では欠かせない存在でした。
大谷町ではいたるところに大谷石で作った建築が見られます。
いいですねー。やはり産地はこうでなくっちゃ。
石のお蔵なんて贅沢だと思いますけど、昔はブロックより安かったから、それこそ湯水のように使ってたみたいです。
大谷町の観光スポットのひとつ、大谷石の山ごと切り出してつくった「大谷観音」と「平和観音」です。
「大谷観音」は平安時代に弘法大師によって彫られた洞窟内の壁面彫刻。日本最古の石仏だそうで、国の重要文化財なので撮影は禁止。
「平和観音」はコチラ↓
27mもの巨大な石像です。第二次大戦後、平和を祈願して造られました。
肩の向こう側に公園があり、そこまで登っていけます。
娘はかなりインパクトがあったらしく、帰ってきてからも「おおきいかんのんさまみたの」としきりに話していました。
ところがこの観音像のすぐ近くで悲しいものを発見。
一見映画のロケ地にもなりそうな神秘的な石の崖の間を入っていくと
奥のほうに粗大ゴミが捨ててありました。
ひどい・・。
大谷町のもうひとつの見せ場、「大谷資料館」。
採掘場を開放した巨大な地下空間です。
資料館なので今はもうここでは採掘作業はしていません。
大谷石は年代順に斜めの層となって地中の奥まで分布しており、採掘技術が進んでくると石材として利用価値のあるものを求めて横へ奥へと掘っていったところ、このような地下空間ができたのです。
迷路みたいに縦横に採掘現場が広がっていてまるでカタコンペのようです。ところどころ、地上の位置を知るための天窓のようなものがあって、そこからわずかな光が入ってきます。もちろん今は照明がありますが。
光が当たらないうえ、石なので熱が伝わりにくく、気温はほぼ一定。夏はひんやりしていますが、冬は逆に外より暖かい日も。
ただしこの日は外がぽかぽかと春の陽気だったので、寒く感じました。
一定の温度を利用して戦中の兵器庫、戦後の食品庫としても使われました。
今では音の独特の広がり具合を利用してヒーリング・環境系の音楽のコンサートが開かれたり、神秘的な空間を活かして結婚式場にもなったりしています。
ちなみに娘はここが心地いいのか、はたまた生気を奪い取られるのか、地下室に入るなりぐったりと昼寝タイムに入ってしまいました。
太古からの歴史と人の暮らしが見て取れる大谷町。
海外の安い石材や人造建材におされ、寂れた感は否めませんでしたが、だからこそもう一度探訪に来たいと思える街でした。
次は娘が小学生になって、夏休みの自由課題ネタがほしくなったら、また家族で来ようかな。
さて、宇都宮市街に戻ります。
宇都宮は餃子の街。ということで餃子マップを片手に、大谷町から一番近い店に入りました。
←美智都の餃子。味がついているので酢とラー油だけで食べるべし。
それから宇都宮はジャズの街でもあるそうです。
中心部にたくさんジャズクラブがあるとのことで、こんど来たときはそんな大人のムードもちょっぴり味わってみたいものです。
新しくカテゴリーをつくりました。
「石の街めぐり」・・・国内外の石の産地に行ったときの旅行記です。
なかなかふつうのメジャーな観光地にいけないかわりに、「石」をテーマにした旅行をするのも楽しいものです。
今までの記事もこのカテゴリーに変更したものもありますので、どうぞあらためてごらんください。
クモつかまえた!
娘の保育園のかばんを片付けていたら、いつのまにか生きたクモが床に落ちていました。
体長5cmほどもある大きな、まっくろいクモです。
「(うわっ)」と心の中で叫びました。
実は私はあまり虫が得意ではありません。
1cm以内なら見過ごすことができますが、それ以上になるとあまり見たくない・・・ましてやつかまえるなぞ・・・。
しかし、子どもにはなるべく「虫がこわい、気持ち悪い」という感覚を覚えさせないようにしろと夫に言われています。
そこで勇気を出して今日はなんとか外へ逃がしてやろうと試みました。
それでも素手はさすがに勘弁してもらいたいので、さりげなくいつも皿洗いで使うゴム手袋をつけ、クモをつぶさないよう手のひらでつつみ、やっとの思いで外に出しました。
「クモさんおうちかえってね。バイバイ」の声がふるえていたかも。
最近お気に入りのトトロの歌にもあります。
クモの巣くぐってくだりみち
ひなたにトカゲ、へびは昼寝
バッタがとんで まがりみち
メイがお散歩の途中でいろんな虫たちに会って、観察したりあいさつしたり。
そうやって季節や自然を感じていくのでしょう。
私はそういう経験が少ない環境で育ったので、逆に今まだ恐れをしらない娘がうらやましいです。
ところで、それとは別に怖い話。
昔(夫が子どもの頃)は、ここ小淵沢でそんな大きいクモを見たことはなかったそうです。しかもこんな真冬に。
ゴキブリも大学で大阪に出るまで実物は知らなかったそう。
「10年後には日本も亜熱帯なんだよ。MOOがおばあちゃんになる頃には南極の氷はないんだよ。」
エヴァンゲリオンの世界がいよいよ近づいている・・・
七賢蔵開きでの出会い
毎年恒例、山梨の銘酒「七賢」の蔵元が開放される週間です。
仕事の合間に通りかかりました。
仕事中だし、一人で運転だし、どうせ試飲もできないけど、一応仕事やブログのネタになるかもしれないから・・・となかば義務的に入場。
ですが、想像を超えるすてきな出会いが待っていました♪
ガラスのぐいのみ展。
高根のガラス工房「うず」の藤巻晶子さんの個展です。
おらんうーたんのメンバーでお名前は知っていましたが、これを機会にお近づきに。
14種類の七賢銘柄を藤巻さんなりのイメージでガラスのぐいのみとして表現した作品集。
ガラスの持つ繊細なイメージも持ちながら、どっしりと肉厚のちょっと大きめのぐいのみも多く、お酒を飲む場までよく考えられてると思いました。
私もささやかながらぐいのみコレクター。
いろいろ悩んでこちらを購入しました。
『大中屋』という七賢でも最高級の部類に入る純米大吟醸酒。
甘みと酸味とすっきり感がほどよい、品の良いだし味の利いた煮物などに合う上質なお酒。
ボトルが「レトロモダンでかっこいい」と藤巻さん談。
細かい泡と金箔が南アルプスの天然水に溶け込むようなショットグラス風ぐいのみです。
七賢蔵開きは明日18日まで。
藤巻さんのガラス展のほか、木工や骨董品、キャンドルの工芸展も同時開催。
もちろん、300円で(飲み放題の)試飲バーははずせませんヨ。
北杜市の新たな観光振興を考える
都会に住む親きょうだいや親しい友人たちを八ヶ岳に招くとき、しばし悩む。
「はて、どこへ連れて行ったものか」
大きなレジャー施設があるわけでなく、大関級の有名温泉があるわけでもない。
親ならせいぜい2〜3日、友人にいたっては丸1日もない滞在期間。
この限られた時間の中であっと驚く魔法の旅を提案せよと課題をあたえられたとき、私は最近では次のような手段をとります。
まずウチへ招く。なかよしの豆屋さんから買ったとびっきりのコーヒーで丁寧にドリップする。それからちょっとドライブしようかと、いつも通る道から少し足をのばしたところで、私自身が常々行って見たいと思っていた場所へ連れて行く。滝とか牧場とか森とか。一人ではなかなか行けないところ。途中で田園風景や山景色を見る。最後は行きつけのレストランやバー、食堂へ。「こんにちはー」「あ、どもー」と言い合えるのが居心地よい。
そしてお客へ一言。「こんな短い時間じゃ八ヶ岳の魅力は語りつくせないよ。またゆっくり来てね。なんならこっちに住む?」
導入部だけ見せられておあずけをくらった彼らはリピーターとして何度も訪れるハメになる。
「北杜市の新たな観光振興を考える」シンポジウムが14日行われました。
北杜市、市商工会、そして民間からのプロジェクト推進委員会(正式名称は北杜市地域産業リマスター・プロデュース事業推進委員会)が主催となり長期滞在先としての北杜市の未来を探るものです。
背景には昨今の旅スタイルにたいするニーズの変化があります。
「盛りだくさん」プランから「ゆったりプランへ」
「豪華な懐石料理より地元の旨い店へ」
観光地として隔離された空間ではなく、より生活に近い旅体験が求められ、同時に滞在期間も長くほしいと希望する人が確実に増えてきているというのです。
基調講演でお話くださったJTBの事業創造本部長という人の言葉によると、「たび」の語源は「他火」つまり他人の(かまどの)火だそうです。
いつもとちょっとだけ違う日常(他人の火)にあたって生活体験を共有することで、その活力をもらって帰ってくる。これが旅なのだそうです。
つまり、与える火の方に活力がなければ成り立ちません。
そういうことで、これからの旅提案をする側としても、自分たちの生活が楽しくゲンキなものでなければいけないというわけです。
このシンポジウム開催に先立って実行された、第一回目の長期滞在プログラムでは、モニターが1週間の滞在期間の中で地域交流型の様々なプログラムを体験。それを個別にコーディネートする「地域コンシェルジュ」の役割も重要でした。
個人的には何か体験しなきゃとかどっか行かなきゃ、とプログラム攻めに合うよりは、何にもしなくていいからとにかくぶらぶらそのへんを歩いたり昼寝したりするのでも十分楽しめる場所だと思うのです。
このシンポジウム、説明や構成、司会も良くて、なかなかいい会でした。
会場はアイスクリームの清泉寮で知られるキープ協会。
いつもとチョット違う、霧雨の清里でした。
あらばしりを制す!
諏訪の銘酒・真澄の限定販売品「純米吟醸あらばしり」を、いきつけの酒屋で勧められ、購入してきました。
酒屋の息子評↓
真澄の醸す、純米独特の柔らかくバニラやフルーツの様な甘い香りが特徴。あらばしりらしいやや酸と少しトロっとしたコクのある口当たりが憎めないです。というか、引き込まれます。
まさにそういう酒です。
人に例えれば、「ボン、キュッ、ボン!」のグラマーな美女、といったところでしょうか。
はっきり言って私とはマギャク(正反対)です。
すっきりした、雑味のないわき水のような端麗辛口美青年タイプを好む私には、かなりきついものがありました。
でもやはり旨いのは認めざるを得ません。
つまみを工夫してなんとか好みに近づけたいところ。
初日はスーパーで特売になっていたアジの刺身と一緒にいただきました。
これはちょっと失敗。
アジの生臭さとは協調しないようです。
そういえば酒屋の息子の談にもこうありました。
お料理は、ダシと醤油の香りがいい“鰈の煮付け”や“おでん”。油にも相性がいいので、“餃子”やドミソースの“ハンバーグ”、“ハム”など。また、淡白なお魚の刺身ともいいですね。チジミも◎。
なるほど。白ワインのような楽しみ方ですね。
ということで、2日目はスモークサーモンと三つ葉のサラダ。
これはなかなかいけました。
サーモンの甘辛い味とあらばしりの濃厚な芳香がよく合います。
そして3日目、息子のお勧めどおり餃子とおでんにて。
なーるほど。これですね。「ボンキュッボン」でもしょせんは日本人(酒)。
やはり日本食との相性が一番のようです。
息子、やるな。
ちなみにアルコール自体があまり得意ではない夫は、初日口に含んだだけで「うッ、あまい」とうなり、それっきり口をつけようとしませんでした。
ということはグラマー美女よりズンドー骨太でいいってことかな。よしよし。
真澄 純米吟醸あらばしり
お求めは小淵沢久保酒店にて。
http://webmotto.exblog.jp/m2007-01-01/#5397099
木材さしあげます
石あるくからのお知らせです。
木枠梱包の廃木材(松)をひきとっていただけませんか?
現状は枠型のまま、長さもマチマチ、釘多数あり。
炊きつけ、釜、薪ストーブの燃料などに使ってください。
運搬には小型トラックを無料でお貸しします。
大量に引き取っていただける場合は、北杜市内及び富士見町まではご自宅までお届けもします。
(切断はご自身でお願いします。)
引き取り場所:山梨県北杜市小淵沢町
お問い合わせ:0551-36-2300(伊藤石材工業)
タイマグラばあちゃん
北杜市で『タイマグラばあちゃん』の上映会があります。
「タイマグラ」とよばれる岩手県早池峰山のふもと、水も電気もつい最近までない人里はなれた山奥で、自給自足しなから一人暮らしをしてきた向田マサヨさんの晩年を描いたドキュメンタリー映画です。
私はまだ見てませんし、この上映会も日程が合わず行けません。
だから以下の内容説明は単なる憶測です。
ばあちゃんは、ジャンヌ=ダルクのように国家を救ったとか、キュリー夫人のように大発見をしたとか、マザーテレサのように貧しい人に献身したとか、そんな偉業を成したわけではありません。
普通に、四季のうつろいのなかで、生活し続ける、それだけです。
それは変化と刺激に富んだ現代社会で暮らす私たちにとって、あまりにも平凡で退屈、かつ不便な生活のように見えます。
「ただ、生きる」
小泉堯史監督の『阿弥陀堂だより』は見ました。
淡々と、信州の雪深い山村・飯山での生活が描かれる中、樋口可南子演じる<妻>の「パニック障害」という病気と、彼女が都会の病院勤務に少しだけもどる期間があり、それが逆にこの映画にフィクションとしての客観性を持たせ、主人公夫婦の田舎暮らしがどっか別の世界ではないことを感じさせる重要なエッセンスになっていました。
映画の中で、お盆の送り火を見つめながら妻が「私たちも先祖になっていくのかしらね」というセリフが私は一番好きです。
この二つの映画が、別に不便な生活をしろとか、自給自足して暮らせ、などということを言ってるわけではないでしょう。
もっと根本的に、「ただ、生きる」ということを、考えるでもなく感じていけばいいんだと思います。
今の生活を変える必要もなければ、悟りをひらくものでもない。
きっと上映会場を出たとき、甲斐駒がひときわきれいに見えれば、それでOKなんだと思います。
そういう思い、したくないですか?
上映会案内は以下のとおり。
日程:2月17日(土) 13:30開場 14:00開演
会場:高根ふれあい交流ホール(北杜市高根総合支所西側)
料金;前売1000円 当日1200円
こんなサイトも見つけました。
タイマグラって?
http://www.taimagura.com/
そば屋地獄
以前八ヶ岳は「パン天国」だと書いたことがあったので、それをもじって今回は「そば屋」について。
少々辛口なので「地獄」としておこう。
小淵沢スパティオからリゾナーレ近辺はここ数年で開店した飲食店が、文字通りずらりと軒を連ねるところ。
その一画に昨年またそば屋がオープンした。
「また」と、かなり失礼な言い方をせざるを得ない。
なにしろそば専門店は小淵沢IC付近半径1km以内で私が知っているだけでも既に4軒、そのうちの3軒はここ数年以内にオープンしたばかり。
品書きのひとつにそばがある店を含めるといったい何軒になるのかわからない。
さらに、半径10km程度なら「車ですぐ」というこのへんの距離感を考えると、富士見から高根に至るまで、八ヶ岳南麓に近年オープンしたそば屋の数は計り知れない。
公共施設や三セクでは必ずといっていいほど「そば打ち体験」を催している。
まさにこの数年、「そば」ブーム・・・というより「そば屋開店」ブームなのだ。
人口5万人の北杜市において、あきらかに過剰ではなかろうか。
当然競争も激化する。
さて、くだんのそば屋。
紅葉の並木とカラマツ・アカマツ・白樺の林に囲まれた一画に強烈なインパクトでその姿をあらわした。
この高原の林をバックに鮮やかすぎるショッキングピンクの外観。
建築途中、私はここを何度か通り過ぎる際、この色が完成形でないことをひそかに願った。
それが洋食屋などではなく、そば屋であることがわかったとき、憤りに似た感情すら覚えた。
「なんで、そば屋が、ここに、こんな色で・・・」
色んな建物がひしめき合う都会ではさほど気にならないかもしれないが、ここは自然豊かな八ヶ岳。(それでも少しずつ破壊されつつあるのだけど)「景観に合う」というのはとても重要なファクターなのだ。
ということで、オープンして半年、食べ歩きオタクの私にしてはめずらしく、意図的に敬遠していたのである。
先日同僚とこの店の話になった。
「ほら、競技場の前のあのおそば屋さんだけどね、」
「あー、あのすごい色の。」
「またそば屋、ってかんじよね」
「ところが、けっこう車停まってるのよ、いつ通っても。」
客が入っている、という噂を聞くと、興味を引くのが人の心理。
よく知りもしないうちからウダウダ悪口を言うのはよくないというのを口実に、勇気を出して入ってみることにした。
飲食店が流行る条件はいくつかある。一般的なものは
1)わかりやすい立地にあること
2)目にとまりやすい外観をしていること
3)店内が居心地がいいこと
4)接客がいいこと
5)味がいいこと
6)値段がリーズナブルなこと
7)特徴がはっきりしていること
特に4は重要だ。
ターゲットは右も左もわからない観光客か、グルメな別荘客か、少し遠巻きに見つめる地元客。
このどれをないがしろにしても八ヶ岳での商売はなりたたない。
マニュアルトークではなく、それぞれの客にあったもてなし言葉が必要だ。
おそるべきことに、このそば屋は上記の条件をほぼ全てクリアしていた。
そばはコシと風味があって旨い。
そばきりと野菜天ぷら盛り合わせで1500円だが、観光地だからこんなもんだろう。
ジャズが流れ、薪ストーブが燃える。
カウンター席で一人静かにいただくこともできれば、テーブル席で家族の食事や和室での宴会にも対応できる。
そして一人で入ったジョセイ客にさりげなく話し掛けてくれる。
正直、この接客ひとつですべてがリベンジできるほど、重要なポイントだと思う。
その話し方がとても自然なので、こちらもつい素性をあかし始める。
地元だとわかると「じゃあまたいらして」とデザートのサービスをしてくれた。
2才の子供がいるというと「ぜひご家族で」と快く受け入れてくれた。
これはかなりポイントが高い。
八ヶ岳のこだわりそば屋とやらは臆面もなく「お子様お断り」と書いているところも少なくないからだ。
うちの娘はそばが大好きなのに、親も子も満足できる店は限られる。
おかあさんと息子さん夫婦の家族経営。
そば打ち担当は息子さん、戸隠で修行したそうだ。
汁そばは京都で。だしのきいた薄口しょうゆ味は都人も満足させる。
天ぷらは全国修行の旅の折、あちこちの天ぷら専門店で伝授してもらった。
手作り甘味メニューも充実。
店を出るとよい天気の昼さがり。
振り返って改めて見ると、ハデな外装も少し落ち着いて見えるから不思議だ。
←そばきり祥香
今回は気分的に「である」調のエッセイ風に書いてみました。
えらそうでごめんなさい。