富士見の宝・アララギ派の歌碑にふれる
ある有名な歌人の歌碑の版木を彫る、というお仕事の依頼がありました。
世の中には歌碑や仏像の拓本をとる、というたしなみがありますが、
やり方をしらずに石に直接墨を塗りつける輩もいるそうで、
基本、有名な歌碑の拓本は石からとってはいけないことになっています。
その代り、レプリカとして木の彫刻(版木)が存在し、そこから拓本をとり、
例えば床の間に飾ったりするんだそうです。
依頼のあった歌碑の版木は、アララギ派の歌人島木赤彦の短歌。
アララギ派は正岡子規の流れをくむ伊藤左千夫が、信州に立ち寄った際出会った島木赤彦と交流を深めて生まれたもの。
富士見町の油屋旅館でしばしば短歌会が催され、そこから富士見の自然や暮らしを表すすぐれた歌が生まれました。
いわば、富士見はアララギ派誕生と発展の地でもあるのです。
富士見町図書館のある建物の2階にある「高原のミュージアム」には、アララギ派をはじめ富士見を愛した文豪の足跡が常設されています。
また、アララギ派の著名な歌人4人(伊藤左千夫、斉藤茂吉、島木赤彦、森山汀川)の歌碑が、富士見小学校の近くにある富士見公園に建てられています。
この富士見公園は伊藤左千夫の設計で、当時は山々を見渡す絶好のロケーションだったそう。
いまでは住宅が増えたり木が育ったりして葉のあるシーズンに山を望むことは難しいですが、四季折々の木々と歌人たちのどっしりとした石歌碑が立ち並ぶ空間は、訪れる人を穏やかな気持ちにさせてくれる憩いの場になっています。
版木の依頼主は、富士見在住の現在のアララギ会の方。
高原のミュージアムの資料室にはそれぞれの歌人の版木がいくつもありますが、赤彦のものが歪みが特にひどく、町からの予算もないことを憂いて、この方が個人として寄付してくださることになりました。
「赤彦先生の歌碑は茂吉先生の書、左千夫先生の歌碑は赤彦先生の書。こんな贅沢な合作は他では見られないんですよ。
富士見はすごい宝があるんだってことを、もっと知ってもらいたい」と熱く語られます。
ここも、私の中で新たなパワースポットになりそうです。