だから石屋はやめられない〜文字彫刻の極意の巻〜
手作りと工業製品のハザマで右往左往しながら生き残りを模索する石屋業界。
データ管理できそうでできない、その最たる作業が文字彫刻だ。
ロゼッタストーンにも代表されるように、石に文字を刻むことは紙とはまた別の重い意味を持たせることができる。
エターナルな内容で、屋外で使用、多くの人の目にふれさせる、という意図のものは石を使うのが伝統的だ。
石工の重要な作業のひとつに文字彫刻がある。
昔はチョンチョンとノミで彫っていったものだが、現代では「サンドブラスト」という方法を用いる。
彫刻面にマスキングシートを貼り、炭化珪素という細かい砂をすごい圧力で噴射して、文字部分だけ削り取っていく。
マスキングシートはパソコンの専用ソフトと専用機械で、今や比較的簡単に作れる。
画面上でフォントを呼び出し、配置、カッティングの指令を出すと、出力側のプロッター(カッター刃がついたマスク用ゴムを切る機械)でギリギリギッチョンと自動的に切ってくれるのだ。
←マスキングシート製作用プロッター
マスキングシートがここまで進化しているのに、肝心の石のほうがかのおおざっぱぶりだということは前述のとおりだ。
たとえば墓誌。亡くなった人を代ごとに順番に記録していく石板のことだが、その石材に「墓誌」と題字をいれ、「戒名・没年月日・俗名・行年」を入れる場合、余白や将来にわたって全体で何人入れるかを考えた上で、今回彫る人の配置を決める。
←石板にゴムを貼り、ブラストし終わった状態
23×21寸で発注して、平均的な誤差は3分、つまり10mm弱。
石屋によってはほとんど気にしないで毎回同じ寸法で彫るところもある。結果、その石板がすべて文字でうまった時には変に余白があったりつまっていたりするかもしれない。でもそんなのは何代もあとのことだし、自分が仕事をするかどうかなどわからない。しかも、その家が代々続いて石板がすべてうまるという保証もない。そんなことまで気にしてもしょうがない、という判断だ。
ウチはそれがイヤなので、将来(おそらく百年後とか)同じ間隔で彫っていってくれればきれいに全体が配置されるであろう寸法を初回の段階で考える。
そこにはだかるのが誤差の壁。
A4とかB5とかきっちり決まったサイズなら毎回同じでラクなのに、同じサイズのはずでも毎回違う誤差が出るから毎回現物を測ることになる。
仕入れた製品の荷をほどき、作業場に置き、寸法を測り、配置を考え、ブラスト用ゴムマスクを準備する。
同じ寸法で注文しても、毎回この作業が発生する。
自然素材相手のオーダーメイドだから当たり前といえば当たり前だ。
なんとかラクにならないのかなぁ。
と嘆きつつも、代々伝えるべき墓石を扱う人間として、はしょることのできない作業なのである。