リニューアルICHI
高根の田園集落の中にある「いち」。
「大人のOFF」のような雑誌数誌でも取り上げられたことのある人気店。
八ヶ岳でも知ってる人は多いと思います。
明治病院という130年前の古い病院を改築してつくった店。
民家のアンティークな魅力に加えて、かつての病院で使っていたらしき医療用の道具などもさりげなくディスプレイされた上で、全面的にオーナーが手作りで直したり作ったりした内装や家具。
このネオジャパネスク的な情緒あふれるお店で出していたのは、挽きたて打ちたての蕎麦でした。
評判を呼び、このお店でこの蕎麦を目的に来店する人数知れず。
知り合いを招待するのにもよく使われ、固定客、リピーターも確実に定着していたようです。
その「いち」が、3月から大胆にリニューアル。
といっても内装の雰囲気はほぼそのまま、センスのよい手作り家具は相変わらず畑からの木漏れ日の中、心地よく納まっています。
刷新したのはメニューでした。
なんと、あれほど評判だった蕎麦メニューをきっぱりとなくし、カフェメニューを提供するようになったのです。
ハンバーグ、パスタ、カレー、ハヤシライス etc.
知り合いから、いちのメニュー変更の話を聞いていた私は、大きな期待を持って久しぶりにこの店を訪れました。
注文したのはハンバーグセット。
結果は想像以上でした。
まずプレートに乗ったつけあわせの野菜の量に驚嘆!
レタス、素揚げの根菜類、マッシュポテトが山盛りです。
そしてその野菜に埋もれているように見えるけど、実際は分厚くてボリュームたっぷりのハンバーグ。
焼き具合も絶妙で、ジューシーな肉汁がじわ〜っと。
デミグラスソースはもちろん自家製で、ふんだんのいためたまねぎのほかに何が入っているんだろう、とにかくコクと甘みが深くて、牛肉の繊維がとろけたような歯ごたえが残って、ソースというよりほとんどビーフシチューのようです。
レタスにかかっているドレッシングは天然塩の甘みと上品なビネガーの酸味がほどよく調和したもの。
素揚げ野菜にかかっているドレッシングは味噌と醤油のブレンド?こちらもやさしい甘さが舌にやわらかい絶品でした。
この素揚げ野菜は、かつての人気メニュー「揚げなすのおろしそば」のつけ汁にのっていた大盛りの素揚げ野菜の名残を感じ、一番「いち」らしさを感じる部分でした。
このセットにはパンがつきます。
天然酵母を使った自家製パン。表面カリカリ、中もっちり、素朴な味で、プレートをジャマしません。
「また、大胆に変えたね」
友人でもあるオーナー夫妻に、タメ口で聞きました。
なんで変えたのか、なんとなくわかる気がします。
オーナーは、このお店開業の頃、言ってたことがありました。
「ぼくは食べ物も含めた空間全部をデザインして、そこでお客様に癒しを味わってもらいたいんだよね。蕎麦はその方法のひとつ。」
そしてそのポリシーどおり、みごとに古民家を改装して、おしゃれでどこか懐かしい空間を演出してきたのです。
個人的には蕎麦って、高級志向であるべきではないと思っています。
今の流通では、いい蕎麦の実を使って、いい臼で丁寧に挽いて、手で打って、ということをしているとどうしても値段が高くなってしまうのはわかるけど、それでも3口で食べ終わってしまうような「こだわり蕎麦」に千数百円も出すなんて、やっぱりナンセンス。
八ヶ岳はそういう蕎麦屋が多くて、すこーし反感を抱いていました。
「いち」はその点、決して安価ではないけれど、野菜豊富だったり、甘味があったりと、メニューもとても考えられていました。
何よりお店の雰囲気がとてもお客様視点に立っている。
そのコンセプトはぜんぜん変わっていないから、蕎麦がなくて洋風のカフェメニューでも無理なく受け入れられる、と思うのです。
だけど、リニューアルから2ヶ月、「いち」は苦難の時を過ごしているよう。
まず、蕎麦を目当てに来る人がまだ圧倒的に多いから、入口で帰ってしまう人がほとんどだとか。
中には「せっかく友人に蕎麦を食べさせようと連れてきたのに」と怒る人も。
まあ、それだけ蕎麦の味がよかったということなんだと思いますが。
蕎麦好きの人は残念でしょうが、ぜひ新メニューも味わってほしいです。
お客のほうが蕎麦だけにこだわって、この新メニューに出会おうとしないのは絶対もったいない。
落ち着いたら、蕎麦の機材や道具を使って生パスタを打つ(?)つもりだそうです。
ちなみにお食事スペースとは別に雑貨・アンティークコーナーも設置されました。
それが雑貨スペース「かえるのうた」。
ちょっとイイ、食器類などにも出会えます。
Taz。谷川俊太郎著「二十億光年の孤独」読書中。(さかさまだけど・・・)